ベトナムの日本人はなぜ減る? 国別推移と韓国側の人口指標から考える仕事と暮らし

筆者:高橋 健太(AI編集部)
ベトナムに住む日本人は、2025年10月1日時点で1万6636人。外務省の統計では、2021年の2万2185人から25.0%減りました。なぜ減ったのでしょうか。人数の推移が示すことと、仕事や暮らしの条件から考えられる仮説を分けて見ていきます。
他の国に住む日本人も、一様に減っているわけではない
ベトナムの減少幅は、中国やタイより大きい

図の上段は、2021年を100にそろえた在留邦人数です。2025年はベトナム75.0、中国86.3、タイ87.3、オーストラリア113.0となります。人数そのものの大小ではなく、各国の増減率を比較しています。元の人数と計算は[外務省の2025年版統計表](https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100957046.xlsx)に基づきます。
ベトナムは2022年2万1819人、2023年1万8949人、2024年1万7410人、2025年1万6636人。2023年の減少が13.2%と大きく、その後は8.1%、4.4%と減少率が縮小しました。「毎年、同じ勢いで日本人がいなくなる」という動きではありません。
タイも2021年より少ないものの、2025年は前年から2.4%増えています。オーストラリアは2021年比で増加しました。日本人の海外居住がどこでも同じように縮小している、という説明だけでは足りません。
同じベトナムでも、ハノイとホーチミンは逆方向
2024年から2025年にかけ、ホーチミンは9732人から9249人へ483人減った一方、ハノイは5648人から5853人へ205人増えました。全国の減少を「ベトナムの生活環境が一律に悪化したため」とするには、この地域差も説明する必要があります。
ただし、これらは基準日の居住人数です。減少分をそのまま帰国者数にしたり、ホーチミンからハノイへ移った人数とみなしたりはできません。
韓国側の人口指標は増加している
韓国の在外同胞庁の資料では、ベトナムの在外同胞の公表推計は2023年版17万8122人、2025年版19万2683人で、8.2%増えています。基準は原則2022年末と2024年末です。日本人は2022年10月から2024年10月に20.2%減っており、参考指標の方向は異なります。
図の下段では、この二つを別の棒で示しました。韓国の「在外同胞」は外国籍の韓国系住民も含む制度ですが、両版のベトナム欄では外国籍同胞が0人で、総数と韓国籍者数が一致しています。ただし、基準月と推計方法は日本と同じではありません。
韓国側の詳しい説明では、北部は在外国民登録と選挙人申告の増加率を使い、2025年の選挙人資料も推計に利用しています。ダナンは前回値に観光客が多く含まれていたとして、平均滞在観光客数を除く修正を行っています。したがって8.2%を純粋な移住の増加率とは読めません。
同庁は北部の増加理由に韓国企業の投資拡大による駐在員や、コロナ後の景気回復による自営業者の増加を挙げています。これは韓国側の推計に付された説明で、日本人の減少原因を証明するものではありません。それでも、国籍ごとの企業活動や居住形態の違いを調べる必要性を示します。中国籍・米国籍なども含む同一条件の連続統計は今回そろっておらず、外国人全体への一般化や「日本人の代わりに韓国人が来た」とする結論は避けたいところです。
出典:[在外同胞庁の2023年版](https://www.oka.go.kr/static/images/component/file/okastatus_2023.pdf)、[2025年版の国籍別内訳・推計方法(31・94〜96ページ)](https://www.oka.go.kr/upload/contents/files/okastatus_2025_20260331.pdf)。刊行年と集計年は別です。
なぜ減るのか――仕事と家族の移動という仮説
有力なのは、赴任・採用・家族帯同の組合せ
2025年のベトナム在留邦人は、期限を定めて居住する「長期滞在者」が1万6086人で96.7%、期限を定めない「永住者」が550人でした。長期滞在者は全員が駐在員ではありませんが、任期や仕事、家族の事情による移動の影響を検討する意味があります。
編集部の仮説の一つは、任期を終えて離れる人に対し、新規赴任者や帯同家族の補充が少ないことです。企業の事業規模が同じでも、日本人管理者の担当範囲を広げたり、現地人材へ役割を移したりすれば、日本人の居住人数は減り得ます。これは企業数の減少とは別の仕組みです。ただし、現地化が今回の774人減の何人分を説明するかを示す資料はありません。
費用の影響も考えられます。JBICは2025年7月の説明で、ベトナムの成長や周辺国企業の進出に伴う人件費上昇を取り上げています。拠点が負担する人件費が上がれば、配置や採用を見直す動機になります。ただし、この資料は日本人の減少原因を調査したものではなく、現地賃金の上昇と日本人赴任の削減を直結させることはできません。
円で収入や貯蓄を持つ人なら、円の購買力が下がる局面で、住宅・教育・帰国費を含む生活を見直す可能性もあります。一方、現地通貨で収入を得る人や会社が費用を負担する世帯では条件が違います。為替や教育費が帰国を増やしたという因果は未検証で、全員の理由としては扱えません。
「撤退が相次いだから」では説明しきれない
[JBICの2025年7月の説明](https://www.jbic.go.jp/en/information/topics/topics-2025/topics_00006.html)では、2024年度調査におけるベトナムは、日本の製造業が中期的に有望とする事業展開先の世界2位、ASEAN首位でした。これは投資意向であり、実際の進出や日本人赴任数ではありませんが、在留邦人の減少だけで「企業が一斉にベトナムを見限った」とする見方には合いません。
現時点で考えやすいのは、企業活動の有無よりも、誰を何人置くか、家族と暮らすかという居住の形が変わっている可能性です。反対に、特定業種の縮小や帰国も一部に含まれるかもしれません。原因の重みを見極めるには、日本人社員数・現地管理職への移管・新規赴任と帰任・帯同家族を同じ企業や世帯で追う必要があります。
今後は「全国の人数」と「身近な需要」を分けて見る
人数の減少率が鈍っているため、この傾向が続けば減少が緩やかになる可能性はあります。一方、赴任者の補充が少ない状態が続けば、事業が成長しても在留人数が戻らない展開も考えられます。どちらも予測シナリオで、2026年以降の実績ではありません。
日本人向けの店やサービスを考える人には、全国の総数だけでなく、地域、家族連れか単身か、長期居住か出張利用かの違いが大切になります。ハノイの増加は、全国の減少がすべての地域の需要減を意味しないことを示しています。人口と企業数、投資額を別々に見ると、「日本人が減るのに企業活動は続く」という状況も捉えやすくなります。
出典URL:https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/tokei/hojin/index.html
媒体:外務省、韓国在外同胞庁、JBIC。
公開日:外務省2025年版は2025年12月25日公表。在外同胞庁の解説は2026年1月号、JBICの対象講演は2025年7月16日。
出来事の日付・集計基準日:日本は各年10月1日。韓国側は2022年末・原則2024年末。
確認範囲:日本人の国別・都市別推移、韓国側人口指標、統計定義、JBICが示した投資意向と費用の論点。グラフと増減率は原表等から編集部が作成・計算。人数減の原因別寄与や2026年現在の居住人数は未確認で、原因と将来像は仮説です。