GIGAMALLで日本人を見かける理由――郊外暮らしは、円安だけでは説明できない

筆者:高橋 健太(AI編集部・AIライター)
GIGAMALLで日本人を見かける機会が増えた。編集部に寄せられた現地の観察をたどると、円安や家賃だけでは見えてこない変化がある。日本の馴染みの店で食べ、生活用品を買い、風呂に入って帰る。その一日を、都心まで戻らずに組み立てられる場所ができているのだ。
GIGAMALLの所在地はファムヴァンドン通りのヒエップビン。旧トゥードゥック側にあり、さらに北東のジアンそのものではない。ジアン方面を含む北東側の暮らしを考えるうえで、買物や休日の行き先となる施設として見ると、なぜここに日本人が集まり得るかが分かりやすい。
訪れる理由と、集める側の狙い
わざわざ行く用事ができた
ファンビッチャンに住む月森砂名氏は、2025年10月のnoteで、調理用品を買いにスタッフとGIGAMALLへ出かけたと書く。自宅からもっと近い別のモールもある。それでもコーナンの品揃えに満足し、日本から重い荷物として買って帰るより、現地で調達すればよいと感じている。食事の目当てはサイゼリヤだった。
これは「安い住宅へ追いやられた人」の話ではない。別の場所に住む人が、欲しい物と食べたい物を求めて移動した記録だ。日本より少し高いという本人の感想もあるが、帰国時に運ぶ手間まで考えれば、現地購入には値段以外の利点がある。
別の在住者ブログ「月曜日のバインミー」は、2025年5月のサイゼリヤ開店直後、都心でも旧2区でもない立地に驚きながら訪問し、翌日にも再訪している。料理や気軽な店構えを評価する一方、味付けや開店直後の接客・衛生面への注文も書く。馴染みの看板があれば何もかも日本と同じ、というわけではない。それでも目的の店は、普段の行動範囲を広げる。
不動産業を営む松本亮一氏も、2025年7月の近況報告に、週末にGIGAMALLの吉野家へ行き、味に満足した半面、人の多さに疲れたと記す。飲食の満足と休日の混雑は同時に存在する。生活者が求めているのは、立派な街づくりの理念より、食べ慣れたものを食べられる安心や、面倒な用事が片付く便利さなのだろう。
現在の館内案内にも、すき家、丸亀うどん、寿司店、ヤマザキ、コーナン、ユニクロなどが並ぶ。日本食だけでなく、日系のイタリア料理であるサイゼリヤも選べる。食事一軒のためには遠くても、買物も済み、家族それぞれに用事があれば、出かける意味は変わる。
風呂は「もう一つの用事」では終わらない
温浴施設An Nhật Wellnessは、GIGAMALLの4階にある。館側は日本式の温浴と韓国式サウナを紹介する。買物の途中で一息つく場所が加われば、短い買物が半日の外出になる。風呂に入りたいから出向き、その前後に食事をする逆の流れも考えられる。
この組合せは、客が勝手に思いついた使い方だけではない。2026年2月の公式告知では、娯楽施設Gigaversalの利用客に温浴などの割引券を配り、子どもの遊びと親・祖父母の休息を組み合わせて売り込んでいた。子どもの見守り条件は別途必要だが、家族の異なる希望を同じ建物へまとめる狙いは明瞭だ。
さらにPremiumは、4月11日にこの温浴施設で日越交流会を開く企画を告知した。食事、名刺交換、家族参加、温浴を組み合わせた内容である。告知から参加実績までは分からないが、風呂を日本人とベトナム人が知り合う場所にする働きかけは実在する。近くに住む人だけでなく、知人に誘われた人や、休日の行き先を探す人を集める理由になる。
そう考えると、日本人を見かける機会が増える仕組みは一つではない。周辺の住民が増えるほかに、同じ人が以前より頻繁に訪れる、家族も同行する、滞在が長くなる、催事の日に集中するという変化が重なる。来訪者が増えることと、暮らす場所として魅力が増すことは両立する。買物や休日の不便が減れば、近辺への転居をためらう理由も一つ減るからだ。
モール側が欲しいのは、長くいて使ってくれる客
GIGAMALLの戦略紹介は、体験を増やして滞在時間を延ばし、消費を増やす方針を自ら説明している。客には便利さが残り、店には追加の売上が残る。風呂、飲食、子どもの遊びを一か所へ束ねるのは、その両方を狙う商売だ。
2026年10月にも、子どもの遊び場tiNiWorldの割引券を会員アプリのポイントで交換する施策や、食品ブランドの親子向け催事が告知されている。一度来てもらって終わりではなく、次の週末にも来る用事を作る。買物客を待つだけの箱から、休日の時間を取り込む施設へ、という方向が見える。
ただし、日本の店が集まる理由を日本人客だけに求めると、商売の本命を見落とす。サイゼリヤの採用告知は、ベトナム人に愛されるブランドを目指すと明記する。JTBの日本牛乳フェア実施報告も、GIGAMALLで健康志向のベトナム人消費者を狙った企画だったことを示す。日本の商品や習慣を買う大きな現地市場があり、その集積が日本人にも使いやすい場所になる。
モール自体は2019年開業で、コーナンも当初から紹介されていた。最近突然、日本人向けの街が出現したわけではない。既存の買物機能に飲食や温浴、交流の目的が重なり、足を運ぶ理由が増えたと見る方が実態に近い。
住む場所としての便利さと負担
住むとなると、空港より毎日の通勤が効く
ファムヴァンドン通りがタンソンニャット空港へのアクセス路であることは、北東側を生活圏にする利点になり得る。出張が多く、勤務地も北側なら、都心の飲食街へ毎回戻る必要のない配置は魅力だ。ただし「郊外だから空港に近い」では広すぎる。工業団地運営者の案内でも、VSIP Iは空港から20キロ、さらに北のVSIP IIは40キロと異なる。案内上の距離であり、朝夕の所要時間を保証する数字ではない。
月に数回の空港利用より、週の大半を占める職場への往復が住宅選びを左右する人もいる。Sembcorpの2016年報は、VSIPの住宅The Habitatを、工業団地の入居企業や地域の専門職の需要に向けたものと説明していた。最近の円安より前から、仕事の近くに住む需要を見込んだ住宅供給があった。
一方、都心の友人に会う、配偶者が仕事へ出る、日本語で相談できる医療機関に行くといった移動は残る。仕事に近い家が、家族全員の暮らしに近いとは限らない。空港への距離や会社までの時間だけで便利さを測ると、別の家族が引き受ける車代と時間が消えてしまう。
円安の節約か、暮らしへの配分変更か
円収入が一定で、円に対して現地通貨が高くなれば、家賃や外食の円換算負担は増える。住宅補助に上限があれば、駐在員でも住居を見直す圧力はかかり得る。反対に、外貨収入を日本で使う人には円安が有利な場面もある。国籍より、何の通貨で受け取り、誰が住宅費を負担するかが効く。
郊外で住宅費を抑えたとしても、それが生活水準を下げたとは限らない。浮いた予算を部屋の広さ、家族の外出、入浴や外食へ回す選び方もある。だが、安い家賃に見えるものが、サービスを外しただけという場合には注意が要る。
GIGAMALL周辺とは別地域のビンズン新都市だが、東急の公式貸室案内には、同じ67平方メートルの表示例で、サービスなし月650米ドル、フルサービス850米ドルという選択がある。税は別で、電気代にも上限がある。200米ドルの差は都心と郊外の立地差ではなく、付帯サービスの差だ。清掃や維持管理を自分や家族が引き受ければ、支払いは減っても家事や交渉の負担が増える。
休日のモールでも同じことが起きる。食事だけなら安く済んでも、人数分の遊びと温浴、往復の移動を足せば家計の別の項目になる。割引券は使う理由を増やす仕掛けでもある。郊外の便利さを享受することと、総支出が減ることは別々に考える必要がある。
家族の生活は、店が増えるだけでは完成しない
日本人学校は中心商業区ではなく、南側のサイゴンサウスにある。学校自身が、居住地の分散で送迎時間が増えることを案内している。北側の職場へ近づくほど、子どもの通学条件とは折り合いが必要になる場合がある。学校の選択を変えるなら、言語、教育課程、費用も一緒に変わる。
ビンズンのチャンギアを紹介したKoike Yusuke氏の2023年の生活記には、息子がトゥードゥックの学校へ1時間かけて通い、日本語の補習校は週1回でも遠いと感じた体験がある。GIGAMALL近隣の現在の所要時間ではないが、親が気に入る街でも子どもの希望する教育との距離は残る、という生活の重さが伝わる。
医療も「郊外に何もない」とは言えない一方、施設があるだけで全て済むわけではない。例えば別地域のSORA IIには日本語対応のクリニックがあるが、一般内科を中心とし、重症時は病院と連携する仕組みだ。日系という看板と、日本人医師が常駐する24時間救急とは違う。住宅を決める際には、日常診療と緊急時を分けた動線が残る。
便利さの裏で、お金と時間をどう配分するか
GIGAMALLで日本人を見かけるという変化には、こうした暮らしの組み替えが重なっている可能性がある。欲しい品を買え、馴染みの食事を取り、風呂で休み、人に会える。都心へ行かなければ済まなかった用事の一部が、北東側で済むようになる。それは近隣住民にも、少し離れて暮らす来訪者にも価値がある。
日本人が円安で困窮したから郊外へ、という説明だけでは、この変化を取りこぼす。節約したい人、通勤を短くしたい人、広さが欲しい人、単に休日を楽しみに来る人が同じ場所に集まる。その裏で、施設側は滞在と消費を増やし、住宅側は暮らしやすさを売る。便利になった実益と、そこに払うお金や時間の両方を見ると、日本人の姿が増えて見える理由が、ずっと具体的になる。
出典と確認範囲
【出典・公開日】
GIGAMALL・住所/紹介(公開日不明) https://gigamall.com.vn/en/contact/
月森砂名・来訪記(2025-10-30) https://note.com/sanavn_sake88/n/n07b85226a41a
月曜日のバインミー・サイゼリヤ訪問(2025-05-10) https://nishivietnam.com/saizeriya-vietnam/
松本亮一・近況(2025-07-06) https://note.com/ryouichi0007/n/n9ffe2677583b
GIGAMALL・飲食一覧(公開日不明) https://gigamall.com.vn/vn/am-thuc/
GIGAMALL・コーナン(公開日不明) https://gigamall.com.vn/vn/gia-dung/kohnan-japan/
GIGAMALL・ユニクロ(公開日不明) https://gigamall.com.vn/vn/thoi-trang-phu-kien/uniqlo/
GIGAMALL・温浴と娯楽(2026-02-11) https://gigamall.com.vn/vn/khuyen-mai-su-kien/su-kien/vua-duoc-quay-da-doi-vua-duoc-relax-voi-an-nhat-wellness/
Premium・日越交流会告知(公開日不明) https://vietnam-premium.asia/events/89/
GIGAMALL・事業戦略(2026-01-23表示、後日情報を含む) https://gigamall.com.vn/vn/khuyen-mai-su-kien/bai-viet/gigamall-diem-den-mang-lai-su-gan-ket-va-hanh-phuc-cho-moi-nguoi/
GIGAMALL・子供施設割引(2026-10-05) https://gigamall.com.vn/vn/khuyen-mai-su-kien/khuyen-mai/doi-diem-tai-app-gigamall-tang-be-ve-tiniworld-giam-ngay-30/
GIGAMALL・親子催事(2026-10-07) https://gigamall.com.vn/vn/khuyen-mai-su-kien/su-kien/maam-ghe-gigamall-den-la-co-qua/
Saizeriya採用告知(2026-03-18) https://gigamall.com.vn/vn/tuyen-dung/tuyen-dung-nhan-hang/nhan-vien-full-time-quan-ly-tap-su/
JTB・日本牛乳フェア報告(2026-01-30付) https://jlec-pr.jp/wp-content/uploads/2026/02/2025年度業務報告書(ベトナム).pdf
GIGAMALL・開業紹介(2019-01-14、Tuoi Tre転載) https://gigamall.com.vn/vn/tin-tuc-su-kien/bai-viet/khai-truong-trung-tam-thuong-mai-gigamall-quan-thu-duc/
VSIP I・II公式案内(公開日不明) https://www.vsip.com.vn/en/project/vsip-binh-duong-2/
VSIP II公式案内(公開日不明) https://www.vsip.com.vn/en/project/vsip-ii-binh-duong/
Sembcorp・2016年報(公表日不明) https://media.sembcorp.com/data/cms/ar/ar2016/operating-financial-review/urban-development-review.html
東急・貸室案内(公開日不明) https://tokyugardencity.com/en/area/servicedapartments/
日本人学校・所在地(公開日不明) https://jschoolhcmc.com/
日本人学校・送迎(公開日不明) https://jschoolhcmc.com/schoolbus/
AMPLE.STYLE・生活記(2023-03-19、更新09-04) https://ample.style/chanh-nghia/
Binh Duong Urban Clinic(公開日不明) https://www.mediva-vn.com/en/
【出来事の日付】GIGAMALL開業2019年1月12日。来訪記は2025年の個人体験。温浴連携販促は2026年2月、交流会は4月11日の開催告知、親子催事は10月10〜11日。牛乳フェアは2026年1月14〜18日。2016年報と2023年の生活記は過去の背景資料。
【確認範囲】施設・企業・学校の公開案内と個人の来訪記を2026年10月13日に確認。料金は掲載例で契約見積ではない。地域の日本人居住増や各動機の割合を測った調査ではなく、来訪行動、施設構成、事業方針を照合した分析。